1st


が舞う。傘をさすほどでもなく、けれど間違いなくホワイトクリスマス。

「今年も送ってもらっちゃったね」
「かまわないよ。こんな時間だしね」

今年も同じ道を通って帰る。
その通りにあるのは。

「綺麗だね」
「うん」

2年目のクリスマス。
同じ場所で同じツリーを二人はみあげた。
ふふっと少し大人びた笑いをのぞみはもらした。

「なに?」
ココの隣でツリーを見上げたままのぞみは口を開いた。

「去年のクリスマスの日はたくさん泣いちゃった」

つきっとココは心が痛むのを感じた。
「のぞみ・・・・」
言葉はつながらない。
ずっと心にあった未来への不安、それは日を追うごとに重荷になっていく。

(もう二度とあの苦しみに耐えることなんてできないんじゃないだろうか?)

離れることへの恐怖。
少しの沈黙。

「今年は泣かないよ、私」

びっくりしてココはのぞみを見た。
彼女の表情は決して曇っているわけでもなく、泣きそうでもない。
むしろ堂々としている。不安がこみ上げる。別の。

「僕のことは綺麗さっぱり忘れちゃう?」

今度はのぞみがびっくりしてココを見上げた。

「なんで?そんなわけないじゃん」
「去年と全然違うから」
「ココだって再会してからずっと不安そうなところなんて見たことないよ?」
「・・・大人だから、がんばったんだよ」

正直な気持ちを打ち明けた。
本当にこれが精一杯の本音だった。
苦しくない日なんかなかった。
どれだけの不安と闘ってきたか。
この想いをどうやって伝えようか。
どうしても伝えられない一言を。

それでも以前の二の舞にならないためにどれだけの仮面をつけていたか。

(僕の不安はそのままのぞみの不安になる)

「そっか、そうだったんだ・・・なんだ、もっと早く言ってよ!」
「言えないよ・・・今だって言わなければよかったって後悔してる」

「ねぇココ。私を見て」

微笑していたのぞみが急に大人びた女性の顔になった。
ふと、のぞみの顔が一瞬だけどフローラに見えた。

(?錯覚?)
目を細めるとそれはやっぱりのぞみの顔だった。

「私たちは離れ離れにならないよ」
「のぞみ、それは・・・」

何十回、いや、何千回望んできたことか。
どんなに心が通じ合っていても、物理的距離はどうしようもない。

「わかるの」

「近い未来、遠い未来、私たちはずっと一緒にいるって」
「・・・・・・直感?」
「ううん、違う気がする。ただ、わかるの」
ココの目をしっかりと見据えて彼女は言った。

「・・・・・・・・・
それが今、のぞみが平気でいられる理由?」

のぞみはうなずく。その表情を見るからに、よほど自信があるのだろう。

(確信?)
ココは背中にぞくっとするものを感じた。
(まさか・・・!)
先ほどのぞみがフローラに見えた錯覚。

それを知り得るのはもう少しだけ先の話。
にわかには信じにくい話だとしても、

「・・・それこそ、今の言葉、もっと早くにいってくれればよかったのに・・・」
「私、別の意味で不安だったんだ」

とても小さな声でのぞみが答える。

もにょもにょっとのぞみが答えようとするけど下を向いてしまっていてよく聞き取れない。
「なんて言ったの?」
「だ、だから、」
その後が続かない。
「???」
どうしてもよく聞こえなくてココは膝を曲げてのぞみの顔をのぞみ込む。
顔が真っ赤になっている。

「ココが!私のことどう思っているのかわからなかったの!」

堰をきったようにそれでも抑えた声でまくし立てた。

ぷっとココが笑った。

「ひっど〜い!」
のぞみが怒るのも無理はない。
下を向いたまま顔をあげようとしない。


「あ!そうだ、のぞみ!」
「え?」

まるで条件反射のようなやりとりでのぞみは言葉に対してごくごくナチュラルに顔を上げた。

ほんの一瞬。
ごくごく刹那な。
触れたか触れないかわからないような。

「え!」

甘さの微塵のかけらも感じられない、キス。

「え、ちょ、も、もう一回!」

おもわず懇願するのぞみ。

「だめ」
「なんで〜〜〜?」
「自信がないから!」
「何の自信よぉぉ」
「いろいろ!」
「えーーーー!」

意味わかんないよぉ
とのぞみがここに愚痴る。
でも、ココも本心から自信がなかった。自制の。

(今はこれが精一杯)

「せっかくのファーストキスなのにぃぃ」
ぶぅぶぅ文句を言うのぞみの耳元でそっと囁いた。
「ファースト、じゃないよね?」

またもや真っ赤になって黙るしかなかった。
デザート王国での出来事はそんなに古いことではない。


(未来がのぞめるなら・・・)

たとえどんなに辛くても、彼女がそばにいてくれるなら・・・

(僕は歩いていける)



fin(27/may/2009)
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