好きだけど、好きだから




「のぞみ・・・・」
「ココ・・・・!」

再会は突然訪れた。

あんなにも会いたいと願った二人が、もう二度と会えないと思った二人が(正確には違うが)
思いもかけず大した時間も空けずに会うことができた。

(まるで何年も会ってないような気がする)
(たった数ヶ月のことなのに)

闘っている彼女の美しさは見惚れるほどだ。

(けれど・・・・)

戦闘が終わっても、僕はのぞみと目を合わせることができなかった。
あんなにも恋焦がれて、会いたいと望んで人なのに。
天にも昇りそうな喜びの裏側の、どうしようもない罪悪が、
僕の心を引き裂く。

翌日には教師として復帰できたけれど、
とてもじゃないけど仕事なんてできる気分じゃなかった。
一人になりたくて図書館の一番奥へ行った。

手紙を取り出す。
昨日もらってから何回読み返しただろう?
あまりにも何回も読み返したから少ししわくちゃになってしまった。


ココに会いたいよ

(僕もずっと会いたかった)
最後の一文をどんな想い出書いたんだろう?

「ココ・・・・・」

ふと顔を上げる。
きっとのぞみは来ると思っていた。
こんな態度をとってきっとのぞみは傷ついている。
だから、ちゃんと二人きりで話がしたかった。伝えたかった。

だけど相変わらず僕はきちんと話すことが、のぞみと目を合わせることができない。

「私はココに会いたかったよ・・でも、ココはちがうみたい」

そんなことあるわけがない!
けれどどうやって言葉に伝えればいいのかわからない。
もどかしさだけが支配する。
逃げようとするのぞみを引き止めるのがやっとで、
引き止めて、それでどうしたらいい?


「のぞみがどんな気持ちで手紙を渡したか、わかってないだろ」

シロップの言葉が胸につきささる。
どうしてこんなに僕は傷つかなければならないのか。
でも、その言葉はひょっとしたら事実じゃないだろうか?

敵襲はいつも突然だ。
考える余地すら与えてくれない。倒れて傷つくドリームに自分は何もしてあげることができない。
あまりにも無力だ。
だからこそ伝えられる言葉も存在することを知った。

ようやく思いが伝えられたと思った。

「私、フローラさんに会いたいの。キュアローズガーデンへいくために力を貸してほしいの」

のぞみに迷いはない。
彼女にできないことはおそらくないだろう。その強い思いが、信念が、優しさが彼女を突き動かすエネルギーであり、また彼女の周りも動かす原動力になる。
僕ができることはなんでもしよう。心の中で彼女に二度誓う。

心の中でつっかかっていたものが吐き出された、そんな気がした。

けれど、帰り道、新しいナッツハウスへ向かう道、
のぞみに暗い影が落ちている、そんな気がした。
みんなとたわいないおしゃべりをして、いつもと同じ様に見える。
だけどほんの少しの違和感。

「昨日も思ったけどすっごいところにあるよね!新しいナッツハウス!」
「まーねー、目の前がこんなに大きな池だもんね!池というより湖!?」
そんなやりとりが聞こえる。
「ねねねね、私ちょっと一周してくるから先に入ってて!お茶までには戻るから!」
「早く戻ってくるのよ」
「うん!」

そういってのぞみは散歩へみんなはナッツハウスへ入っていった。
一度は僕も入ったけどなんとなく心配だ。
「のぞみ呼んでくるよ」
そういうと、
「お茶先に飲んでるからごゆっくり〜」
わかってますから、
と、いわんばかりな目で見送られた。全員に!


「のぞみ!」
のぞみは池のほとりの木陰で寝転んでいた。
「まだ春先なのに風邪引くよ」
「ん〜?大丈夫だよー」
あっけらかんとして笑い出す。
起き上がって座りなおしたのぞみの隣に僕は座った。

「何を考えていたの?」
「ココが笑顔になってよかったって」
「うそだ」
のぞみは即答するけど僕もその返事に即答した。
のぞみはきょとんとして僕をのぞみこむ。
「なんで?うそなわけないじゃん!」
「そうかもしれない。でも今のぞみが考えていたことはそんなことじゃないだろ?
のぞみ、僕をだますにはまだ修行がたりないよ?」
のぞみはつまった顔をして前を向いてしまった。

「別に本当に大したことじゃないよ?」

「ただ・・・なんで私はまたプリキュアになれたのかなって。不思議だったの」
「プリキュアに・・・?」
「そう。プリキュアになる条件って、何だと思う?なんでフローラさんは私のところにきたのかな?」

これはちょうど昨日ナッツと話したばかりだ。
フローラの手紙はなぜのぞみに届いたのか?
フローラはなぜのぞみを知っていたのか?

「プリキュアの条件・・・か。うーん、そういわれると漠然となんだけど」
「なになに?」
「相手を思いやる心とか、強い信念とか、綺麗な心・・・とか?」
「みんなとね以前話したときもそんな感じだった」
「ああ、そうなんだ」

「でも私、そんなに綺麗な心は持ってないんだよ?」

のぞみの言葉にそれを言った表情に一瞬ドキっとしてしまった。
のぞみより綺麗な心の持ち主を僕は知らない。その本人が全否定をしている。

「私はいつも考えるより先に動いちゃうし、フローラさんにキュアローズガーデンにきてほしいって言われたときもすぐに行きます!って言っちゃったけど・・・・でも・・・」
「それはとてものぞみらしいって思うけど、後悔でもしてるのかい?」
「してないよ。だってフローラさんとっても苦しそうだったもん」

やっぱりのぞみらしい。
けれどどこか歯切れが悪い。

「ほんの一瞬だけど、頭のすみっこのほうで考えちゃったの。
               ・・・・・・・・・・・・・・ココに会えるかもしれないって」

「え?」

顔に火がついたように赤くなるのを感じた。

「ココは迷惑かけてごめん、ってあやまってくれたけど、
ねぇココ。私はね、ココに会うためなら何回でも何十回でも闘うことを選ぶよ?」
先に体が動いてしまった。
抱きしめずにはいられなかった。
こんなことを言わせたのは僕だ。
「ごめん・・・・!」
「私、キュアローズガーデンにいきたい」
「うん」
「キュアローズガーデンに私の願いがあるかもしれないから」
「僕も一緒にいっていい?」
「変なのココ。ココもいないとキュアローズガーデンの扉は開かないんでしょ?」
「そういう意味じゃないよ・・・キュアローズガーデンに僕の願いもあるかもしれないから」

抱きしめていたのぞみがふっと顔を上げた。
「ココの願いって何?」
「秘密。のぞみの願いって何?」
「じゃあ私も秘密!」


でも多分、確実に、僕たちの願いが一緒だということを僕は知っている。



fin 2009/05/30
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