side  C


僕はいつからのぞみのことを好きになったんだろう?

と、考えることがよくある。
初めて出会ったときは彼女はまだとても幼くて、どこにでもいる少女だった。
だけど、思春期特有というのか、少女はすごい早さで階段を駆け上がった気がする。
いつも隣でみていたはずの僕が・・・見落としそうになるぐらいに。
実際見落としていたのかもしれない。

去年の夏ごろはもう完全に僕は彼女に恋してしまっていたから
初めて意識し始めたのは5人が闇へ落ちていった時だったのかもしれない。
あの時、5人一斉に落ちたはずなのに僕はドリームしか、のぞみしか見えていなかった。
たとえ、他の4人がだめでも(怒られそうだけど)のぞみだけは助けたかった。
・・・・僕のために、彼女を助けたかった。

彼女はまだ恋に恋するような年頃だとわかっていたし、
僕の想いが重荷になることは明らかだったから表面上を取り繕うのが大変だった。
・・・ナッツにはばれていたから怒られっぱなしだったけど。
それでも僕の選択は正しかったと思っている。
王国に帰ってものぞみのことを考えない日は1日だってなかったけど、
元の姿でいればそれも少しは薄らぐ。
大好きなことに変わりはないけど、人の姿でいるととにかく欲求に押しつぶされそうになる。
それにどれだけかかるかわからないけど、復興した王国をのぞみに見せたいという目標があったからかなり無茶な働き方をしたりもした。
仮に何年も後に復興した王国をみせるために彼女を呼ぶ時に、
彼女の隣に彼女を支える存在がいたとしたらそれこそ諦められるんじゃないかと自虐的なことを考えたこともあった。

・・・恐ろしいほど暗くて後ろ向きな考え方だ。

再び彼女に会えるとわかったとき、理想の出会いができないという思いよりも、
暗い喜びのほうが大きかった。
実際に再会したときの驚きは今でも忘れられない。
ほんの数ヶ月離れていただけなのに驚くほど彼女は変わっていた。
かわいい顔立ちはそのままなのに、何が彼女を変えたんだろうか?
と、不思議にさえ思った。雰囲気が別人だ。

だから余計に彼女との会話を恐れた。
大人になってほしいと望んでいたはずなのに、実際にそれを目の当たりにすると怖くて逃げ出したくなってしまう。僕は本当にダメな大人だ。
少女が女性にかわった(変わりつつある?)理由を僕は知りたくなかった。
でも僕はその理由を知ることになる。
彼女のベクトルはまっすぐに僕に向かっていることを知る。

・・・自分がこんなにも一つのことで一喜一憂する人間だとは思わなかった。

彼女の隣の席は空いたままだった、と思っていた。
思っていたのに・・・・!

最近、その席がシロップで埋まっていることが多い。
これは正直忌々しき事態だ。何が忌々しいかというと、シロップが、というよりものぞみがシロップをかまいすぎるという点だ。
彼女は困っている人を無条件で、無償で助けようとする。
ひょっとしたら去年の僕をシロップに重ねてしまっているのではないだろうか?
先に出会ったのが僕だったから?・・・とか本気で考えそうになる。

まただ。
美々野くるみを振り切ってのぞみを探すと二人でベンチに座って楽しそうにしているところを見てしまった。
僕は大人気ない大人だからつまらない口実を使ってのぞみの隣をキープしようとする。
ここまでくるともはや滑稽だ。


けれどどうしても譲れない。これだけは。

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