潜在意識


「うわわわわわ!!」
どっしーんとのぞみがココの目の前で派手に転んだ。
いつもならたいていココが抱きとめるが、このときは間に合わなかった。
「のぞみ!大丈夫か?」
「いったぁぁぁぁい!」
「まーた転んだのぉ?」
「今日は受け止め役が間に合わなかったのね」
「ココ様は受け止め役じゃありませんよ!」
と、みんなが言いたい放題言っている。のぞみは頭を抱えながらうめいている。
「大丈夫?つかまって」
手を差し出されたのぞみは不思議そうにココを見た。
「・・・・・小々田先生?」
「?なんだい?」
「なんで先生がこんなところにいるの?・・・ていうか、ここどこ?」

「・・・・・・・・・・!!!!!」

「何言ってるのよのぞみ!ここはナッツハウスでしょ?」
「ナッツハウスって・・・最近できたアクセサリーショップだっけ?」
「ココのこと、忘れちゃったんですか?」
「ココって・・・?小々田先生のこと?なんで先生ここにいるの?」
「のぞみさん・・・ナッツさんのことも忘れちゃったの・・・?」
「ナッツさん・・・ってナッツハウスの店長・・・のことですよね?」
「のぞみ!私のことは覚えてるんでしょーね!?」
「美々野くるみさんだよねぇ?」
「プリキュアのことは・・・?」
「プリキュア?アクセサリかなんか???」

呆然とするみんなを尻目に会話を聞いていたかれんが結論をだした。

「これは記憶障害ね!」

「記憶障害!?」
「多分今のぞみが思いっきりこけたことで起こしたんだと思うんだけど・・・頭をぶつけたみたいだからそのせいね。一時的なものだとは思うけど、うちのかかりつけのお医者様にみてもらいましょう」
そのままみんなでじいやさんの車で病院へいくことにした。
ココとナッツ、くるみは元の姿でこまちのバッグの中にもぐりこんだ。今ののぞみが見たら大変なことになるかもしれないから見られないように。

「一時的な記憶障害ですね、数日もすれば元に戻ると思いますが、100%ではありません」

再びナッツハウスに戻って真剣な話し合いが行われた。のぞみは大事をとって家へ帰った。
「今エターナルが襲ってきたらどうするのよ!」
「私たちとミルキーローズで応戦するしかないわね」
「そんな・・・!のぞみさんがいないなんて・・・・!」
「仕方ないじゃない!プリキュアということ自体忘れちゃってるんだから!」
「でもキュアモは持ってますよね?」
「多分持ってること自体気がついてないんじゃないの?」

(のぞみが僕のことを忘れるなんて・・・)
この時、ココは正直エターナルのことすらどうでもよかった。ただ、ただ、のぞみの反応に心底驚いた。


数日過ぎたが、のぞみに何の変化もおこらなかった。
のぞみはナッツハウスにもよりつこうとしなかった。
「最近のぞみとりんを見ないがどうしたんだ?」
ナッツが切り出した。
「のぞみがあまりこようとしないのよ・・・多分違和感があるんでしょうね。りんはのぞみが心配で帰りは必ず一緒に帰っているみたい」
かれんが答えた。
「そうか・・・」
そうつぶやいてココを一瞥した。
「ココ、授業中とか学園ではのぞみはどうしているんだ?」
「え?あ、ああ、どうもあまり僕は好かれてないみたいだ。目も合わせてくれないよ」
「えええええ!そうなんですか?ココ様!のぞみったらいったい何様のつもりなのかしら!」
「落ち着きなさいくるみ、記憶がないんだから仕方ないわ」
「でも、かれん!」
「今のところ敵襲もないからいいけど、ほんと、困ったわね・・・・」
今まで黙っていたこまちが突然切り出した。
「ねぇかれん、お願いがあるんだけど・・・」


実は一度だけココはのぞみと一人でコンタクトを取っていた。
放課後、教室を見回っていたとき、たまたまのぞみが一番前の席に座って窓の外を眺めていたのだ。
「のぞみ」
のぞみはびっくりして振り返った。
「小々田先生!やだなぁびっくりさせないでくださいよ!」
「誰か・・・待っているのかい?」
「はい、りんちゃんが・・・・・絶対に一緒に帰るから待ってろって。すんごい心配性ですよねぇ」
(あの日からずっと敬語で話している・・・本来ならこれが普通なのはわかっているけど・・・)
ココはのぞみの前に立った。
「のぞみ・・・本当に覚えてない・・・?」
「ごめんなさい、みんなからも毎日聞かれるんだけど・・・何かとても大事なことを忘れていることはわかっているんだけど・・・どうしても思い出せないんです」
ココはの机の前に手をついてのぞみを見た。
「僕のことも・・・?」
「先生・・・・?や、やだなぁ、そんな風に聞かれると、困っちゃうんだけど・・・じ、実は私と先生恋人同士だったとか!?」
最後のほうは声が裏返っていた。ちゃかしたつもりで聞き返したのぞみのぎりぎりのラインだった。

「そうだ、といったら?」
のぞみは顔が真っ赤になるのを感じた。
「ほ、本当に!?」
のぞみの真剣な問いにココはひるんでしまった。
「や、恋人同士、ではないけど・・・ただ、そのくらい強い絆で」
「ひどい!からかうなんて!」
全部言い終わらないうちにのぞみは怒って出て行ってしまった。ココは呆然としてのぞみを追いかけることもできなかった。
(僕は今、何を言った・・・!?)
(サイテーだ・・・・)

それがほんの二日前のことだった。


こまちは放課後、のぞみと一緒に生徒会室へ来ていた。
「どうしたんですか、こまちさん?こんなところに二人でなんて」
「ええ・・・ちょっと外の人には聞かれたくなかったから、かれんにお願いして鍵を借りしたのよ」
「聞かれたくない・・・こと?プリキュアのことだったら何度も・・・」
「違うの!今日はそのことじゃないのよ・・・だからここに来てもらったの」
「じゃあいったい」
こまちはいいにくそうにして、腕を組んだりそわそわしていたが、決心がついたのか切り出した。
「私なりに他の人の言うことを聞いていろいろ考えたの。それとのぞみさんの態度と照らし合わせて考えてみると・・・ずばり!きいちゃっていいかしら?」
「・・・・なんだかいやな予感はするんだけど〜・・・どうぞ」
「小々田先生のこと、どう思ってるのかしら?」
「・・・・・・・・っ」
のぞみは顔を真っ赤にしてこまちから思いっきり目をそらした。
「小々田先生は教師で・・・私は生徒です・・・」
「それはわかっています。私が聞いてることはそういったことではないのはわかってるわよね?」
「ただの・・・・担任の先生です・・・・」
「ええ、それでその担任の先生のことをどう思ってるのかしら?」
のぞみは完全に言葉に詰まってしまった。顔を真っ赤にしてこれ以上無理っていうぐらい下を向いている。
こまちはため息をついた。あまりにもわかり易すぎる。しかもなんだか自分がいじめている気分になってきた。

「のぞみさん、ここ数日、ナッツハウスに行きたがらなかったでしょう?そして、小々田先生を避けてる」
「避けてるなんて!そんなこと・・・・」
「私思ったんだけど、それって全部今までの裏返しのことなのかしらって思ったの」
「裏返し・・・・?」
のぞみはこまちの言っていることの真理が今ひとつつかめなくて、おそるおそる顔を上げた。
「そう。それと、ごめんなさい。私今もう一つ気がついてしまったことがあるの」
こまちはやさしい目でのぞみを見た。
「のぞみさん、すごく『先生と生徒』ということにこだわってない?」
「そう・・・かなぁ?」
「たとえば、の話ね?たとえば、小々田先生がのぞみさんのことを好きで好きで仕方ないとしましょう。その場合、『教師』という立場上悩むかもしれない。でも、『生徒』が『先生』を好き、ということで悩むことはあまりないと思うの」
のぞみはこのたとえ話にびっくりした。真っ赤になってこまちに言い返した。
「ちょ・・・こまちさん、何を言い出すんですか!」
「ええ、まぁたとえ話じゃない。・・・あんまりたとえ話になってないと思うんだけど・・・・、それでね、何が言いたかったかというと・・・これも裏返しなんじゃないかしら?って思うの」
「こまちさーん、私頭良くないほうなんでもうちょっと簡単に・・・」
「うーん、そうね、結局何が言いたいかって言うと、記憶をなくす前ののぞみさんは、そういう『立場』をひょっとしてとっても気にしていたのかな?って。ただそれは、『先生と生徒』という立場のことじゃないんだけど」
「私記憶がないんですよぉ」
「そうよね、そうすると私の話は・・・この人に聞いてもらいたかっただけなのかもしれないわね」
そういうとこまちはおもむろにバッグから一匹の人形・・・もとい、獣をとりだした。
「こまち・・・・」
「はい?」
「あのたとえ話は心臓によくないココ」
「たとえ話になってなかったと思うんだけど・・・」
「・・・・・・・・・・・」

のぞみが人形かと思っていたのに突然しゃべりだしたためものすごい驚いていたが、二人は(一人+一匹?)完全にスルーした。
ぼん!と音をたててココが変身したからさらに驚いたがそれも二人はスルーした。
「それじゃあ私席をはずすから後はお二人でどうぞ」
こまちがにっこりと微笑んで生徒会室から出て行った。

「のぞみ・・・」
「小々田先生・・・だよね?」
「うん」
「て、手品かなにかなの?」
「それは後で教えるよ。それよりさっきの話・・・」
瞬間、のぞみは顔が赤くなった。
「わわわわわ、私は別に・・・!な、何も言ってなかったと思いますです!」
挙動不審すぎて思いっきり変な敬語になる。
「のぞみはこういうことは全然言わないから気づかなかったんだけど・・・ひょっとして僕の立場をすごく気にしてた・・・?」
「た、た、立場って『センセイ』ってことでしょお!?」
「違うよ・・・ねぇ、どうしても思い出せない・・・?」
ふいにココがテーブルに手をついて至近距離でのぞみの瞳を覗き込んだ。
その瞬間

ゴッッ

鈍い音がした。
「痛いココーーーーーーーーっ!!」
ココはまた元の姿に戻って痛みと懸命に戦った。
ココの頭を硬球が直撃したのだ。
「うわわわわわわわわ」
その余波をくらってのぞみが後ろに椅子ごと倒れた。


「・・・・・大丈夫?」
こまちがドアのところから声をかけた。
「のぞみ!大丈夫ココ!?こまち!ひどいココ!席をはずしていたんじゃなかったココ!?」
「鍵もってるの私なのよ?そばにいる(見てる)に決まってるじゃない。でも一回で当たってよかったわ。一応りんさんからはあと2個もたされてたのよ」
「良くないココ・・・」
ココはりんからどれだけ信用されてないのか目の当たりにして軽くショックを覚えた。あながちりんの心配も的はずれではないのだが。
頭をさすりながらのぞみが起き上がった。
「いたたたたた。いったい何なのぉ〜?」
「のぞみさん、大丈夫?」
「のぞみ大丈夫ココ?」

「あれ?ココにこまちさん?あれ?ここいったいどこぉ?」
ココとこまちが顔を見合わせて、笑い出した。
「え?二人ともなんで笑うの〜?!」
「みんな先にナッツハウスへ帰ってしまったから、私たちも帰りましょうか?きっと心配して待ってるわ」
ココが姿を変えてこまちに釘(?)をさした。
「今回のことはオフレコでお願いします」
こまちは声を押し殺して笑い出した。



fin(23/june/2009)
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