2 秘密の共有


「どうしたんだい、のぞみ?」
「ナッツ!今お店暇だよね?ちょこっとだけココ借りるね!」
「ああ、かまわないが・・・」

嵐のように現れたのぞみはナッツの返事を聞くか聞かないかのうちに僕の手をひっぱって走り出した。
雨は小雨で傘をさすか迷う程度だった。

「のぞみ、なんでそんなに急いでるの?どこへいくの?」
「いいからいいから!」

僕の質問には一切答えずに急ぎ早で街中を走っていく。
街のシンボルの時計台までやってきたときにはまだ雨は降っていたけどずいぶん明るくなってきた。
ナッツの言ったとおりだった。

「上へ登ろう!」
「うん?」

僕は登ってすぐにのぞみが言いたいことがわかった。

「うわ!これはすごいね!」
「へへへ〜でしょぉ?これ、見せたかったんだ」

遠くに大きな大きな虹が見えた!雲は薄く空は見えないけどとても明るい。小雨が幻想的で本当に綺麗だ。
こちらの世界へきて初めて見た虹だ。僕はしばらく見入ってしまった。
ふと、のぞみがこっちを見ているのに気がついた。

「ありがとう、のぞみ」
のぞみがふるふると首を横に振った。
「ココにはいつも私が元気をもらっているから。ココは元気でた?」
「元気・・って僕そんなに元気なかった?」
「私はそう思ってたんだけど・・・違った?」
そんなにあからさまにしていたつもりはなかったのでちょっとびっくりした。
「いや、確かにちょっとうっとおしいとは思ってた・・・かな」
僕はまたしばらく虹を見た。

「私も梅雨は大嫌い!だったんだけど、学校帰りに大きな虹が見えたとき、あまりにも綺麗で見とれちゃった。・・・今のココみたいに」
「こっちの世界でこんなふうに綺麗なものに見とれるのは久々だなぁ」
「そうなの?前にみた綺麗なものってなぁに?」
のぞみだよ。
と、危うくいいそうになったのをぎりぎりで止めた。
「秘密」
「教えてよ!」
「いつかね」

のぞみが初めて変身したとき、どれだけ驚いてどれだけ見入ったか、今は秘密。
言える日がくるのかどうかはわからないけど。

「パルミエ王国でも虹って見えるの?」
「もちろん見えるけど・・・でも王国自体が幻想的だから虹だけを意識することってあまりないかも。雨自体も少ないしね」
「そうなんだ!」
「こちらの世界は建物は高いし多いし、街にいると空を意識することって少ないから余計に綺麗に見えるね」
のぞみはとても満足そうな顔をしていた。

「虹のことは二人の秘密ね!」
「秘密?なんで?」
「だってそのほうが素敵じゃない?」
「二人だけの秘密?いいね。また見れるかな?」
「こんな天気が続くから絶対にまた見られるよ!」
しばらく楽しませてくれていた虹はだんだん薄くなって消えてしまった。
「そろそろ帰ろうか」
時計台を降りたとき、雨がぽつぽつとまた降ってきた。
「また降り出してきたよ!」
「急ごう」
走り出したとたんにどしゃぶりになった。
「うわーん、天気予報のうそつき〜〜〜!」


(9/july/2009)
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